メールマガジンNo.287(2014年8月19日号)骨太公園
震災後多くの被災者が入居した仮設住宅の暮らしで、孤独死を出さないことを一番の目標としたが、一棟5世帯を代表する戸長さん(注釈1)と集会所ごとの組長さんたちの見回りにより、現在のところ相馬市の仮設住宅での孤独死は発生していない。私は15ブロックの組長が集まる会議(注釈2)に出来るだけ出席するようにしているが、感謝の気持ちでいっぱいだ。この震災を通して、地域の人々どうしの繋がりが、人生にとって如何に大切かを改めて実感している。
二番目の目標としては、やはり長期的な仮設住宅生活に備えての健康維持だった。福島県の場合、特に放射線被曝という特殊な問題を抱えているが、綿密な空間線量測定(注釈3)に加え、子ども達の外部被爆検査(注釈4)とホールボディカウンターによる内部被曝検査(注釈5)を、全学童を対象に行うことにより、複数箇所にまたがる仮設住宅建設地域での居住者への被曝が極めて少ないことを確認しながら放射能対策を進めてきた。
次は成人病対策を含む体調管理である。栄養の偏りを防ぐため、孤独死対策の目的も兼ねて、65歳以上の老人と子どもを対象に夕食の惣菜を毎日2品配ってきたが(注釈6)、やはり仮設住宅の4畳半の生活は成人病を加速させる環境だった。
相馬市では、東大医科学研究所の上教授とそのスタッフ達、また東大医学部国際保健政策学教室の渋谷健司教授や、さらに相馬市医師会の先生方の協力を得て、仮設住宅特別仕様の健康診断(注釈7)を毎年行ってきた。費用は、ノバルティス・ファーマからの支援金を充てている。
特に気を使ったのは血糖値、高脂血症、それと骨そしょう症である。仮設住宅の手狭な暮らしが原因で運動不足になっていることに加え、放射能の被害によりあまり食べなくなった魚貝類に含まれるビタミンD摂取量が減ったことなどを心配したのである。
そんな折、平成25年、26年と頼もしい援軍が来てくれた。福岡市の豊栄会病院の理学療法士の方々と、九州大学整形外科の石井武彰医師だった(注釈8)。彼らの支援を得て、理学療法士による運動機能検査に加え、超音波による骨密度の検査を行った(注釈9)。
結果は、やはり心配していたとおりの傾向を示していたが、全体の健康管理対策としてはラジオ体操や歩行などの運動を出来るだけ進めること、夕食の惣菜に魚介類を出来るだけ加えること、それと食事の嗜好を改めてもらうような保健師による栄養指導などである。
多くの方々の努力の甲斐あって、災害公営住宅への入居が進んでいるが、25年の秋に九大の石井医師が興味深い提案を残していった。「災害公営住宅に併設する公園には、散歩によって骨そしょう症対策になるような遊歩道を考えたらどうか?」というもの。
相馬市が高台移転による災害公営住宅を整備する地点は、全部で7箇所。うち最大規模となる刈敷田地区は総面積約7ヘクタール。内訳は一戸建て住宅70戸、9世帯入所の集合住宅4棟、80坪~100坪の分譲地43区画、集会所一棟、それに1000坪のミニ公園である(注釈10)。竣工を今年度中と予定しているが、移転終了後は144世帯の立派な集落となるので集会所や公園を整備するとともに、買い物弱者のための移動販売車「チャルメラカー(注釈11)」や、中心市街地への通院や買い物のための「お出かけミニバス(注釈12)」の運行により自立支援を図っていくことにしている。
このうち1000坪のミニ公園について石井医師からご提案をいただいた訳だが、我々はここで改めて被災地の都市公園の役割について検討してみた。一般的に都市公園は、防災目的・地球環境保全などのほかに、「子供からお年寄りまでの幅広い年齢層の自然とのふれあい、レクリエーション活動、健康運動、文化活動等多様な活動の拠点(国土交通省)」とされている。しかし、子ども達のための遊具は目に付くが、これからの高齢化社会に向けての工夫があっても良いのではないかと考えてみた。被災地の高齢化率と世代間人口バランスは人口動態の上で、10年あるいは20年後の日本の姿を先取りしているとも言われている。
仮設住宅での生活を支援してきた相馬市としては、これまでの検診データや経験を踏まえて子どもと高齢者のふれあいや、コミュニティ構築推進の役わりに加え、高齢者の運動機能維持に役立つような歩道を設計することにした。設計に当たっては去年に続き今年も検診支援に来てくれた豊栄会病院の理学療法士の方々の知恵を借りた。
歩道を一周するとある程度の運動負荷がかかり、筋力維持が図られるよう高低差を付けること。手すり付で「け上がり」の低い階段と、車椅子のためのスロープを並列させ、休憩のための東屋を二ヶ所造る。ベンチの近くにはストレッチのための壁を作り、気軽に全身運動も出来るようにすることなどの工夫を入れた。
新しい災害公営住宅の集落のコミュニティが機能するように、向こう5年間は前述の組長制度に準じた特別行政区長を置くことにしている。地域リーダーを中心に、設計した理学療法士の方々の指導も仰いで身体的・社会的な健康維持・増進に努めて行きたい。
公園のネーミングだが、石井医師は最初、東北だから「奥の細道」にちなんで「骨の細道」というのはどうだろう?と提案した。ところが骨そしょう症に備える公園が、「骨が細く」なったら骨折するではないか!と、散々責められた挙句、スタッフ一同「骨太公園」なら元気そうで良いのではないか?ということに決まった。もともと整形外科医としての石井医師の優しい提案から始まった企画である。みちのくを歩いて野に詠った松尾芭蕉を想うあたり、人間味があふれて微笑ましい。ありがとう。
資料写真
注釈1 戸長会議
注釈2 組長会議
注釈3 空間線量測定
注釈4 外部被爆検査
(ガラスバッジ)
注釈5 内部被爆検査
(ホールボディカウンター)
注釈6 夕食の提供
注釈7 仮設住宅での健康診断
注釈8 石井先生と豊栄会
注釈9 骨密度検査
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更新日:2019年08月20日