市長エッセー

0(ゼロ)からの風

2009/05/15

 5月13日、相馬市役所分庁舎で「0(ゼロ)からの風」市民上映会の第一回実行委員会が開かれた。
上映予定は8月2日の日曜日13時30分から。夏休み中だが、相馬のお母さんたちに、できればお父さんにも観てもらいたいと思いこの日に決めた。この映画は実話に基づいたノンフィクションである。概要は以下の通り。

 最愛の夫に先立たれ、一人息子の零と暮らす母親である主人公の鈴木共子さん。まるで恋人同士のような二人の親子を突然悲劇が襲う。早稲田大学に入学したばかりの零が飲酒運転の車にはねられ即死したのだ。愛する息子のあまりにも突然過ぎる死。彼女は零の死を受け止められない日々を過ごす。零を奪った加害者は飲酒運転かつ無免許だった。憎むべき加害者は再犯にもかかわらず、「業務上過失致死傷罪」による最高5年の刑にしか問われないのだった。あまりにも軽い交通犯罪の刑罰に直面した彼女は、未来ある若者の命を奪っておいて数年で社会復帰できる当時の法制度に対し、刑法の厳罰化に向けて立ち上がる。自分と同じ悲しみを背負う人を一人でも増やさないためにも、零の生命を繋げていくためにも、自ら街頭に立ち仲間とともに37万人の署名を集め、国会を動かし最高で懲役20年の「危険運転致死傷罪」の法制化を成し遂げる。そして彼女は「これからは零の分も生きよう」と誓い、零の使っていた机で零の教科書やノートを辿りながら受験勉強をして、早稲田大学への入学を果たし、やがて卒業を迎える。その彼女をモデルに、親子の絆、母性愛の深遠さ、生命の尊さをテーマに制作された。

 3月の初め、監督の塩屋俊氏の友人のA氏から、たまたま新宿の居酒屋でこの映画の話を聞いた私は、決して商業ベースの映画でもなく、上映はあくまでボランティア活動として運営されている「0(ゼロ)からの風」を、必ず相馬市民にも観てもらおうと心に決めて帰ってきた。交通事故対策協議会ではいつも「飲酒運転は犯罪であり、事故は故意による傷害罪だ」そう言ってきた私にとって、被害者の気持ちを共感できる疑似体験ができると思ったからである。さいわい自分はこんな悲しい目に遭ったことはないが、多分それは運がいいだけの話で、いつわが身に降りかかるともしれないことなのだ。市民みんなで飲酒運転を追放することは行政のテーマというより、結局自分たち自身の問題である。

 市の外部評価委員会委員長の羽根田万通氏が早稲田大学のOBなのでこの話を持ちかけたところ、「この女性の気持ちは痛いほど分かるし、われわれの力で飲酒運転事故の悲惨さを市民に訴えるために、是非やろう」と乗り出してくれた。そして彼の友人たちの輪を中心に交通事故対策団体の方々にも呼びかけて、行政を抜きにして市民による実行委員会で主催しようということになった。当日の会議では、出来るだけ多くの市民に見てもらうために市民会館の大ホールで上映することや、子供たちにもお小遣いで来てもらうために入場料を500円とすることも決めた。

 さらに実行委員会のメンバーが張り切ってくれて、最低でも800人は集めようということになったので私自身も感激している。必要経費で足りない分は団体や企業に寄付を募りに歩いてくれるそうだ。
 このような企画を行政が道徳映画として市民や子供たちに押し付けるだけだったら、人集めも教育効果も大きな成果を期待できないだろうと思う。その点、飲酒運転追放とか交通安全の願いは市民生活に直結する行政テーマなのだから、この際市民参加の事業というよりも、市民みずからの手で目的達成に向って進んでいってもらったほうが効果的である。

 市民生活のための行政テーマだとしたら、可能であれば出来るだけ市民の手に委ねること、つまり「行政の市民化」という大きな体験を積むことになると思う。事務局長の羽根田氏やスタッフの皆さんには大きな期待を寄せている。

 

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