市長エッセー

診療科別地域別診療単価

2011/02/04

全国の医師総数は、平成10年の24万人から20年には27万人と、10年間で14.8%も増加している。だから医師不足という言い方は、数の上で見る限り適当ではない。しかし実情は、地方の救急医療の現場では、身体的・精神的に厳しいゆえの医師たちの立ち去りにより、年を追うごとに医師不足が深刻化している。つまり医師不足とは医師の絶対数の不足を表す言葉ではなく、必要とされるところに医師がいない現象を言うのだ。このままでは近い将来、地方都市では安心して暮らせなくなってしまう。

改善すべき点がふたつ。
ひとつは、外科や産婦人科など特に医師数の減少が目立つ外科系診療科に高診療単価を与えることと、医事訴訟のサポート体制をつくること。
近年、医療の高度化・専門化により分業化が進み、多くの専門医が必要とされるようになった。分業化により、医師数の伸びを上回る需要が生じた結果、相対的に足りなくなった。その原因のひとつが訴訟社会である。患者は医師を信頼せず、医師も患者の側に立つというより訴訟を回避することを念頭に置くようになり、訴訟リスクの高い職場から立ち去った。さらに新人医師たちが訴訟を受けやすい診療科を敬遠するようにもなった。この10年間の診療科ごとの医師数の変化を調べると、外科医で10%、産婦人科医で6%の減少を示しているのに対し、眼科医や皮膚科医など比較的訴訟の少ない診療科では20%も伸びているのだ。
産婦人科医の不足が社会問題になったが、私が一番危惧するのは外科医師数の著明な減少である。私が医学生だったころ、外科医は医療の華だった。難しい手術に鬼神のような表情で挑む彼らにあこがれて、特に団塊世代にメスを持とうとした医学生が多かったが、あと数年先、彼らが大量に退職したときに緊急手術のできない地域社会が多く生まれるだろう。この不安は産婦人科の比ではない。
安心社会を維持するために、必要ながらも医師数が減少傾向にある診療科の単価を上げることと、結果の予測が難しい医療手技に対する医療訴訟保険を、公費で負担することを考えても良いのではないか?

ふたつ目は地域別診療単価。
ここ10年の医師数の伸びを地域別に見ると、首都圏が突出していることがわかる。平成16年からの臨床研修制度も、結果的に新卒者の首都圏への流れを作ってしまった。平成10年から10年間の医師総数の増加14.8%に対し、首都圏は軒並み20%以上を示している。これを昨年度までの直近の5年間で調べればさらに顕著だろう。医師の偏在が社会問題になって久しいが、研修医たちの首都圏志向が拍車をかけているのだ。研修終了後にそれぞれの地域に戻って病院勤務に就いてくれれば良いのだが、若い医師たちにとって首都圏での生活は魅力らしい。
平成20年の人口10万対医師数は東京都で277人、ちなみに福島県では183人だった。これを逆数にすれば、医師一人当たりの担当責任の重さと、国民が受ける医療の手厚さの地域間比較ができる。社会保険などは全国一律の保険料を課せられていることを考えれば、医師数の極端な地域格差は不公平である。さらに福島県のような、県土の広い地域の医療機関への通院時間やコストを考えればなおさらだ。
私は、医師不足地域の診療単価は大胆な加算があっても良いのではないかと思う。今や診療報酬の計算はレセプトコンピューターが自動的にはじき出してくれるから、たとえば県別に微調整をすることも可能だ。地方の患者側の負担が増大しないためには、加算分については10割給付にすれば良い。
医師に医療への情熱を求めるだけでは地域間格差の解決にならないのだから、思い切って経済的政策で地方に誘導することを考える時代に来ているのではないか?

 

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